俺様先生と秘密の授業【完全版】
 そんな、あたしの心配に、兄貴は、肩をすくめた。

「天竜組で、何をしていたか、なんて知らないけれど、狼では無理なコトは、させないさ。
 あの、ケンカのできない直斗でも、副総長が務まったくらいだ。
 吉住も居ることだし。
 ムカシ、僕と直斗がそうだったように。
 力の象徴は吉住に任せて、岸は、誰よりも速いカリスマになればいい。
 ……規模の大きな同好会のつもりでもいていいし、ね」

「そか……」

 それならば、岸君は狼になっても、大丈夫かもしれない。

 兄貴の頼もしい言葉に、あたし、息を吐いた。

 天竜組を抜けた岸君の暮らす場所が、本当になくなっちゃったら、どうしよう、って。

 当面の大きく、困った状況が解決した気分で、すごく安心だった。

 ……だから、気がつかなかった。

 兄貴が、敵であるはずの岸君を、破格の待遇で迎えてもいいって言った、本当の、ワケも。

 そして、何よりも。

 岸君が、今の居候先を離れて『ドコ』で暮らすつもりになっていたのか……

 ……ううん。

 暮らさなくては、いけない状態だったのか。

 あたしは、まだ、何も知らなくて。

 ただ、ただ、ほっとして、良かったって、笑ってた。

「やっと、笑ったね」

 鋭かった眼差しの力を緩めて、兄貴がほほ笑んだ。

「やっぱり、愛莉ちゃんは、笑顔の方が可愛いよ。
 これから先も、出来れば。
 ずっと、ずっと笑っててほしいな……」
 

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