俺様先生と秘密の授業【完全版】
 兄貴は、持っていたフォークをぽい、と投げ捨て、立ちあがると。

 そのまま、あたしを椅子からさらうように抱きあげ……抱きしめた。

 この身が折れるかと思うほど、力強く。

「あ……兄貴?
 ……お兄ちゃん……?」



 がしゃ がしゃ がちゃんっ!


 その時にテーブルクロスの端が巻き込まれ。

 上に乗っていたお皿や、グラスが床に落ちて砕けた。

 大きな物音に何事か、と食堂に入ろうとした使用人たちに、来るな! 出ていけ! と怒鳴って、兄貴は、あたしにささやく。

「この前の……熱が高かった夜。
 愛莉ちゃんは、僕と直斗の話を聞いていたね……?」

「……うん」

 兄貴は、判ってたんだ。

 あたしがあのとき、起きていたこと。

 兄貴に、ぎゅっ、と抱きしめられていたからお互いの顔は、見えないけれど。

 あたしの心臓がどきん、と強く、跳ね上がった。

 だって、あたし。

 直斗と、兄貴の切ない、強い想いを確かに聞いてしまっていたから。
 
「……その時、直斗にDNA鑑定でも何でもやって、白黒つけろって言われたけど……本当にやることになった」

「やるって、DNA鑑定を?」

「うん。
 だけど、僕が愛莉と本当に兄妹かどうか、知りたかったらじゃない。
 親父が、自分が死んだあと、水野小路家の財産分けがスムーズにできるようにって言いだした事だ。
 ……ま。
 結果としては、同じ事だけどね」


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