俺様先生と秘密の授業【完全版】
 いつも、大胆な水野小路会、会長である、お父さんが。

 自分の『死』をちらりとでも意識してしまうほど。

 今回の天竜組の親組織、藤沢組との戦いは、辛いみたいだ。

「藤沢組は、小さいけど。
 ダミー事務所が山ほどあって、本拠地がはっきりせず、なかなか潰せない厄介な集団だから、難しいんだ」

 そう言って兄貴は、ますますあたしを抱きしめる手に、力を込めた。

「……怖いよ、愛莉。
 僕が、自分の手で天竜組や藤沢組と戦うことじゃない。
 争いの結果、親父や僕自身が傷ついたり……
 ……もしかしたら、死んじゃうかもしれないことじゃない。
 愛莉と僕の真実が判ってしまう事が……本当に、何よりも怖いよ」

「兄貴……」

「僕には、他に兄弟がない。
 子供の時も一緒に住んでいたはずの母も留守がちだったけれど。
 愛莉が側にいたから、ちっとも寂しくなんてなかったよ。
 中学までは、普通に出たのに。
 水野小路の子供だと、半ば強引にこの屋敷に連れて来られた揚句。
 当主の息子として、何でも完壁に出来なくちゃいけなくて。
 プレッシャーに押しつぶされそうだったときも。
 愛莉が、後からここに来て僕を見つめてくれたから、頑張れたんだ」

 

< 199 / 362 >

この作品をシェア

pagetop