俺様先生と秘密の授業【完全版】
 岸君は、困ったように、ぽりぽりとこめかみあたりを掻いた。

「早瀬倉と吉住が、愛莉さんが居なくなったから、探しに行く……って騒いで。
 自動解散?」

 わあ。

 そか。

 あたし、お手洗いって、言って、ここ来たんだっけ!?

 トイレにしては、長すぎたから、先生達、心配しちゃったんだ!

「もう! 岸君!
 そんな大事なことは、すぐに言ってよね!」

 ……これ以上二人に心配をかけられない。

 あたしも、伊井田さんに続いて、屋上から、降りようとしたとき。

 岸君が、ふわり、とあたしをゆるく抱きしめる。

「き……岸君?」

 驚くあたしに、岸君は、ささやいた。

「やっと……二人になれたから……
 ちょっと……話がしたいんだ」

「……」

 岸君が、こんな風に、あたしにさわることは。

 今まで小動物が懐(なつ)くみたいで、別になんとも思ってなかったけれど。

 今日の夜。

 兄貴に、強く抱きしめられた記憶が蘇って、反射的に、岸君の腕の輪の中から、するりと、抜けた。


 ……あたし、岸君も怖い?

 そんなこと、無いよね………?

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