俺様先生と秘密の授業【完全版】
 それじゃ、イジメの現場を見たのに、何もしない。

 あたしが、イヤだなって思っている、クラスのみんなと同じじゃない!


 一分……二分、と経つうちに、あたしを探して近づいて来る音が、怖かった。

 だけども、時間を追うごとに、だんだんひどくなってゆく騒ぎに、居てもたっても、居られずに。

 とうとう、隠れ場所から出ようと、身を動かしたそのとき。

 気配を察知したらしい、吉住さんの声が、飛ぶ。

「……愛莉さんも、何があってもそこから出ては、いけません」

「でも!」

「理不尽な暴力に対して、真っ正面から向き合うことはカッコ良く見えますが。
 力も、有効な解決策もない限り、それは、そんな自分に酔う、自己満足でしかありません」

「でも、あたしが出て行って収まるのなら……!」

「確かに、今日の、今の、騒ぎは収まるでしょうが、根本的な解決が無い限り、無駄です。
 下手に動くと、別な所で取り返しのつかないコトが起こるかもしれません。
 あなたが、感情のままに動いて、ガラス窓に手を突っ込んだとき。
『あの人』がどれだけ心配したと思ってるんですか。
 今回は、そのケガぐらいでは済まないんですよ?
 物事には、やみくもに突っ走るより、様子を見なくては、いけない時だってあるんです」

「でもっ!」

「本当に、騒ぎを解決したいと思うなら。
 まず、ここを無事に切り抜けて、それから、考えましょう」

 ……と、吉住さんが言った時だった。

 すぐ近くで、窓ガラスが割れる音がした。

「きゃ……っ」

 ベッドの上では、伊井田さんが悲鳴をあげかけ、吉住さんに口をふさがれたようだった。

「二人とも、静かに。
 ……ヤツらが、来ます」
 


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