俺様先生と秘密の授業【完全版】
「直斗」

 直斗と、受け入れ先の病院とのやりとりが、一段落したのを見計らって。

 我慢できなくなったあたしは、声をかけた。

「岸君、大丈夫だよね?
 ほら、なんか出血も、治まって来たし……」

 本当は、血液が流れすぎて、もう出る血が無いなんて……思いたくない。

「傷も痛まないみたいだし、息も静かで、苦しそうじゃないし」

 もう、痛みの刺激に反応出来ないほど弱って……

 呼吸が、止まる寸前だなんて……

「直斗ぉ……」

 ひた走る車の中が、暗いから、だけじゃない。

 涙があふれて……あふれて。

 もう、誰の顔も見られなくなったしまったあたしの頭に。

 直斗は、その、大きく暖かい手をのせて、撫でた。

「……祈れ。愛莉。
 俺達が、出来ることは……もう。
 それしか、ない」

 ……

 ……うん……

 まるで、自分に言い聞かせるかのように言った直斗の言葉に。

 あたしは、ようやく涙を拭いた。

 そして、改めて、祈る。

 神様なんて、今までちっとも信じてなかったけれど。

 あたしは、あたしのココロの全てを賭けて祈った。

 ……お願い、どうか。

 生きて……!
 
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