俺様先生と秘密の授業【完全版】
 
 そいつは。

 特に、クラスメートに、あいさつをすることもなく、のそっ、と入って来た。

 前髪が長く、目の所にかかっている上。

 本当は、高い背を猫背に丸めているから、もっと表情がわかりづらい。

 雰囲気も、どんくさい。

 鞄を女の子みたいに抱きしめて。

 教室の後ろの扉から、こっそりと入って来た。

 そして、ひっそりと、坐る。

 できるのなら。

 誰の目にも写りたくない……ってところだろうけど。

 それ、無理だから。

 クラスにいる他の男子に見つかった、かと思うと。

 すぐに五、六人に取り囲まれた。

「よ~~、岸(きし)。
 今日も来やがったな!」

「……おはよー、ございます」

「のんきに、あいさつなんてしてんじゃねぇよ!」


 がんっ!


 岸君を取り囲んだ目つきの悪い一人が、机を蹴飛ばした。

 その音は。

 教室中に、響き渡ったのに。

 誰もそっちの方を見ようとは、しない。

 誰も関わりたくない、んだろうけど。

 あまりに、毎日起こる光景に。

 関心を払わなくなっちゃったかもしれない。

 

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