丘の上より



「ねぇ、アクマは生きてたとき、なにをしていたの?」


健史にとっては、素朴な疑問なのかもしれない。しかし、私にとっては難題のように思えた。


なぜなら―――


「…私には…、生きていた頃の記憶がありません。」


「…じゃぁ、家族とかも――」

「覚えてないのです…」


そう、なにもかも…。



「そんな…」

「でも、ここに来てからの記憶はありますよ。今年で325年になります。」


「さ…さんびゃく??」

健史は目をまんまるにして驚いた。何度も瞬きをし、アクマの肌をうかがった。それに気付いたアクマは言った。


「あぁ、私は歳をとらないのですよ。」

アクマは少し笑った。その笑い顔は美しかった。アクマは、健史の頬が赤らむのを見た。


アクマは健史を見た後、目を閉じて上を向く。


「――私がこんな姿で成仏っきないのは、きっと昔にとても悪いことをしてしまったせいだと思うのです。」



< 9 / 170 >

この作品をシェア

pagetop