◆兄貴の彼女◆
夜はあまり眠れなかった。
そして俺は次の日、朝家を出た。
今更だけど、正直……俺のやってる事って正しいよな……って思う。
そんな事を思いながら、待ち合わせ場所の公園に着く。
すでに藤沢は来ていた。
「藤沢!」
「あ、神崎君。おはよう」
「おはよう」
真っ白のワンピースに、供え用の花を持って立つ藤沢は、制服を着ている時の藤沢より大人に見えた。
一瞬ドキッと、心臓がはねた。
何考えてんだ俺。
「早いんだね。もしかして、待った?」
「ううん。私もさっき来たから」
「そっか。じゃぁ行こうか?」
「……うん」
藤沢は今、どんな気持ちでいるのかな。
俺、藤沢に悪い事してないかな。
ここに、半ば強引に連れてきたそんな俺を藤沢はなんて思うかな。
思う事はたくさんあった。
会話もない。
ただただ黙って、藤沢は俺の後ろから歩く。
そして……。
「藤沢……」
「……うん」
あと一歩歩けば兄貴の墓の前。
藤沢は重いはずの一歩を踏み出す。