◆兄貴の彼女◆
俺は、兄貴の墓の前にしゃがみ込み、手を合わせ、兄貴に話しかける。
「兄貴……藤沢、連れてきた。別れの挨拶もしてないって言うからさ。せめて……話だけでも聞いてやってよ」
俺は藤沢の顔を見るために、後ろを振り返る。
泣いていた。
藤沢は、キレイな涙を流していた。
藤沢には悪いけど……。
そんな泣いてる藤沢を見て……不覚にも、また心臓がはねた。
俺、ドキドキ……してんのか。
「藤沢、兄貴に挨拶してやってよ」
「うん」
藤沢は俺の横にしゃがみ込み、手を合わせる。
そして、ゆっくり口を開く。
「「藤沢」……京介も私の事そう呼んでいたよね。名前で呼ぶと、慣れた時にうっかり学校でも呼んでしまいそうだからって」
少し震えた声で続ける。
「最初は、名前で呼んで欲しいって思ってたけど、それにも慣れて…今では呼んでもらえない事が悲しいよ……京介」
藤沢は、合わせていた手を広げ、その手で顔を覆う。
「ごめんね京介……ごめん……ごめんなさい」
ひたすら謝る藤沢に、俺は何も言ってやれなかった。
何分か黙っていた藤沢は、少しすっきりした顔で立ち上がる。
そして俺に、「今日はありがとう」って、笑って言ってくれた。
その時俺は思った。
ああ、俺のしたことは藤沢の為になったんだ。
藤沢のあの笑顔だけは曇らしたくない……二度と。
兄貴がこれからも天国でずっと笑顔でいられるように、藤沢も幸せにならなきゃいけないんだ。
俺は、いくつかの答えにたどり着く。