◆兄貴の彼女◆
「私、納得いかないよ」
「美佳、落ち着けって」
隼人は美佳の腕を掴む。
美佳は、俺に泣いて訴えた。
「隼人だってお兄さんを亡くして寂しいのは同じじゃない。なのに何で夕斗なの?」
美佳は少し、理性をなくしかけていた。
「夕斗は優しすぎる」
「いや、これは優しさとじゃなくて」
「でも、今夕斗がやっていることは、同情だよ?」
美佳の言葉に少し詰まった。
確かに周りからみたらそうかもしれない。
でも、同情じゃないことは確かなんだ。
「もし……もし、それがウソだったらどうするの?」
美佳が恐ろしい事を口にした。
「え?」
「その話がウソで、ただ夕斗に近づきたくてついたウソだとしたら?」
「美佳、言いすぎだぞ」
隼人が少し低い声で言った。
ウソ……?
俺に、一気に不安が襲いかかる。
「藤沢は……あいつはそんな奴じゃない」
「わかんないじゃん!お願い夕斗、目を覚まして?」
「俺は……」
俺の言葉はだんだん自信がない言葉になる。
藤沢はそんな奴じゃないはず。
でも……万が一、美佳が言ってる事が本当なら?
わからない。今まで考えた事ないから。
「ごめん……俺……」
「夕斗!」
俺は何が何だかわからなくて、少し考えたくて、この場に居ても立ってもいられなくて。
家を飛びだした。