◆兄貴の彼女◆
そして放課後、俺は先生の用事で少し遅くなったけど、約束の公園に着いた。
オレンジ色に染まる公園のベンチで、体を小さくして藤沢が座っていた。
っよし。
「藤沢、お待たせ」
「あ、夕斗君。先生に用事頼まれてたんだね。私、知らなくて」
「ううん。大丈夫」
藤沢は、少し間をあけて、俺から視線を逸らした。
そしてとても悲しい表情で話し始めようとしていた。
「……あのね、私――」
「ごめん藤沢!」
ダメだ。
藤沢のこんな顔見てたら、俺が今までしてきた事最悪に思えてきて、謝らずにはいられなかったんだ。
「夕斗……君?」
「俺、ずっと藤沢を避けてた。あんなに兄貴の事で藤沢に助けてもらったのに……そして、これからは俺が友達として、兄貴の代わりに藤沢を笑顔にしてやるって言ったのに」
そうだ。
そうだよな。
俺は信じてあげればいいんだよな。
何惑わされてるんだ俺は。
そう決意したんだけど。
「やっぱり夕斗君、悩んでたんだね」
「え?」
「私がいきなり現れて、色々迷惑かけちゃったかな?ってずっと思ってたの」
「あ、いや…それは」
藤沢は、俺の不安な気持ちをなんとなくだけど察知していたのかもしれない。
「確かに俺、ある人に言われて……不安になっていたんだ」
「うん」
「もしかしたら、藤沢と兄貴は本当は関係なかったりして?とか、色々考えたり」
「……うん」
藤沢は、俺の気持ちに笑顔で「うん」と返事していた。
「けど、気づいたんだ。俺――」
「いいの。夕斗君」
「え?」
俺、この笑顔ずっとずっと曇らせないようにって思ったのに。
「いきなり現れて、お兄さんの彼女ですって信用できないよね?私、すこし夕斗君に甘えてた。そのせいで夕斗君に迷惑かけちゃった。夕斗君だけじゃない。夕斗君の周りの人たちにも」
「いや、藤沢……俺は」
藤沢、笑ってなかった。
悲しい顔してる、今。
「ごめんなさい。私、もう大丈夫だから」
「………藤沢」
「私も、夕斗君の力になってあげられなくてごめんなさい」
「話はそれだけなの」って言って藤沢は、俺の顔見る事なく去って行った。
藤沢なりの……優しさ?
俺に迷惑だと思って?
違う。
俺が望んでいたのはそうじゃない。
「藤…………」
俺が振り返った時にはすでに、藤沢の姿はなかった。