◆兄貴の彼女◆
「ハァ…ハァ……兄貴」
藤沢宛の手紙を内ポケットの中に入れ、どしゃ降りの雨の中を走り、兄貴の墓までやってきた。
「兄貴、手紙読んだぜ。マジ自分勝手。ってか届くの遅いんだよ…俺、藤沢のこと傷つけちまっただろ?」
兄貴の墓の前で膝をつき、兄貴に叫ぶ。
「マジ自己中、弱虫、どんだけ弱すぎなんだよ!俺の兄貴はこんなに弱くねーぞ!」
なぁ、兄貴!
ーードン!ドン!
「答えてくれよ!兄貴!」
答えてくれるはずもない石を叩き、訴える。
わからない。
どうしていいか。
だって俺はもう藤沢を傷つけた。
けど兄貴……
「俺、まずは謝りたいんだ藤沢に。今更かもしれないけど謝りたいんだよ!けど…今すぐ会いたくても藤沢んちわかんねーよ」
俺は、兄貴の墓に手をつき、思い切り叫ぶ。
「兄貴が俺たち会わせてくれたんだろ?……なら会わせろよ!藤沢に!今すぐ藤沢に会わせてくれよ!」
ハァ……ハァ。
涙。とまんねー。
何やってんだ俺。
こんなことしても無駄なのに。
「…夕斗…君?」
どしゃ降りの雨の中、石に打たれた雨音の中に聞こえた声。
聞き覚えがある声。
今、会いたい人の声。
俺を「夕斗君」って呼ぶやつは一人しかいない。
俺はその人を見て、小さく息を漏らす。
「…藤沢」