◆兄貴の彼女◆
「ただいま」
「おかえり」
隼人がちょうどリビングから顔出した。
隼人の顔を見て思う。
「お前ってさ、悩みないの?」
「はい?何急に。ってか、千鶴ちゃん、来てるぞ?」
「だから、その千鶴ちゃんっての……は?!何で?!」
「いや、俺に聞かれても」
俺は驚きつつも、リビングに走った。
藤沢はたまにぶっとんだ行動をする。
天然なのか?って行動。
「藤沢?!」
「あ……夕斗君、お帰りなさい」
「た、ただいま……ってか、何でウチに?」
「先生に、夕斗君のこのノートを渡すように頼まれてたの忘れてて、明日の授業で使うノートだったから今日渡さないとって、夕斗君、先に帰っちゃったって思ってたから、お家まで来たんだけど」
藤沢は自分のカバンからノートを取り出し、俺に差し出す。
「あ、わりぃな」
「うん……あと、普段色々気にかけてもらってるから、何かお礼がしたいと思って、昨日焼いたクッキーがあってそれを持って来たの。はい」
そして、その焼いたクッキーを俺に手渡す。
女の子なんだな、藤沢も……。
って俺、ニヤけてない?大丈夫?
「あ、ありがとう」
「このクッキー、京介も好きだったクッキーなの。もう一度、作ってみたんだけど、味は保証出来ないかもしれないけど……」
「そう……なんだ」
わかってる。
「俺に」くれたんじゃなくて、「兄貴が好きだったクッキー」だから俺達にくれるんだ。
藤沢は何も悪くない。
なのに俺、今すげー胸痛いし、心臓の鼓動が速い。
「隼人さんも、もしよかったらどうぞ」
「え?いいの?ありがとう!じゃ、さっそく」
「はぁ?」
俺は隼人に取られそうになったクッキーの袋をひょいと上にあげた。
せめて。
「俺より先に食べるの、ありえない。藤沢、取りあえず部屋いこうぜ」
俺は藤沢の手を引き、階段を上がる。
隼人は、呟く。
「あらら……あいつ、自分で何してるか分かってるのかな。バレバレですよー」