◆兄貴の彼女◆
『お前がそれを運命って思ってんなら、その先の運命を切り開くのもお前自身だぞ』
運命。
切り開く。
それは自分でしか出来ない。
そして俺は、一度だけ藤沢の顔を見た。
そして視線を外した。
兄貴……ごめん。
「俺は……藤沢が……好きだ」
今俺、藤沢に好きって言った?
言ったよな?
頭の中が真っ白だ。
何も考えられない。
やばい。藤沢の顔が見れない。
少しの沈黙の後、藤沢が声を出した。
「え……あの……夕斗君、い、今なんて」
それ、聞き返すかな?……泣きたいよ。
けど、もう言ってしまった。
「俺が好きなのは、藤沢」
「あ、あの…私」
「ごめん。本当は、ずっと言わないつもりだった。藤沢、今見たいに困るって思って。けどこんな形だけど……なんか言いたくなった。困らせるような事言ってごめん」
「…………」
藤沢は明らかに動揺していた。
「返事はいいよ……俺、藤沢の気持ちわかってるから」
「……夕斗君」
「早く学校行こうぜ、遅刻する」
俺はそれだけ言って、玄関へ足を運んだ。
気まずさだけが、この家に残る。
話を切り出した美佳でさえ、俺が言えないとでも思っていたのか、俺が藤沢を好きだって認めてから、それ上は何も言わなかった。