◆兄貴の彼女◆
どれくらい歩いたかな?
藤沢は声をかけてこない。
俺は公園を見つけて、その中へ入る。
「ごめん……余計なことして」
「ううん。素直に、嬉しかったよ」
「え?」
「ありがとう、夕斗君」
今更思い出して赤面する俺。
ぼんやりだけど俺……頭に血がのぼって、藤沢のこと「千鶴」とか呼び捨てにしてなかったか?
「なんか、正義のヒーローみたいだった」
「正義のヒーローか」
「夕斗君は、いつも私を助けてくれる。私が泣きたい時はそばに居てくれたし、話したい事があれば何時間でも聞いてくれた」
俺は藤沢の顔をずっと見続けた。
「なぁ、藤沢……これからずっと……千鶴って、呼んでいい?」
「え……うん。いいよ」
「最初に約束、守れないけど……千鶴って呼びたい」
「最初の約束?」
「兄貴の代わりにいっぱい「藤沢」って呼んでやるって言ったこと」
「そういえば、そういうことも言ってくれたよね」
藤沢は、下を向いてそう言った。
「でも、これからは俺自身の気持ちで千鶴と話していきたいんだ」
「夕斗……君」
「俺の気持ち、知ってるよね?」
「俺は千鶴の気持ちが知りたい」
藤沢は、黙って下を向いたままだった。
「私は……その……」
そして俺は、ズルにも……そんな迷っている藤沢を抱きしめる。