憂鬱な午後3時
そのまま帰ろうとしたが、その懐中時計が落ちていた目の前のお店は、他とは違っていて、高級感漂うアンティーク調の洋館みたいだった。

俺は懐中時計と、この店を勝手に結びつけて、此処の店の持ち物だろうと思った。

《カランカラン…》
ドアを開けると、渋い乾いた鈴の音が、店内に響き渡る。

「いらっしゃい…」
ロマンスグレーのオールバックが良く似合う、渋いオジ様。

まぁ…カッコ良く英語でロマンスグレーと言っても、日本語で言うと【ゴマ白髪】
俺は、思わず吹き出してしまった。

「おやおや…何か可笑しいことでもあったのかい?」

俺が、1人で笑い出しても微動だにせず、静かに微笑み返す素敵な人だな…と、素直に思った。

あ…そうだ、俺は慌ててポケットから懐中時計を出して、カウンターに近づいた。

「あの…これ、外に落ちてたので拾いました。多分…此処の店の方の持ち物かと思ったので…」

「これかい?…これは僕のではないね、ちょっと待ってね…羽月(はづき)さん」

奥のキッチンから、奥さんと見られる人が現れた。

意外と若く見えて、美人だった。
フリルの付いた真っ白なエプロンで、手を拭きながら近づく。

「これね…羽月さんのかい?」
「いいえ…私のではないわ」
羽月さんと言う人は、静かに首を振る。

「…だそうだ、せっかく君が拾ってくれたのに申し訳ないね…」

「あ…いいえ、こちらこそ、すみません」

俺は、懐中時計を受け取るとポケットに入れ直した。

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