5月10日
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「こいつはだめだな」
──獣医が呟いた。
閉めきった牛舎の中は5月だと言うのに蒸し暑く、小蝿が煩わしいほど飛び交う。
それでも、耳に残るのは羽音ではなく、規則正しい牛達の鼻息だった。
暑いなぁ。玉状の汗が首筋から背中を伝う。
頭の片隅で、何か別のことを必死で考える自分がいた。
今思えば、それはまるで現実味のない死刑宣告。
「生きてるのに」
無意識に呟いていた。