帽子屋さん。
『…そう、違うのよっ!』
何かを思い出したかのように、急に手を叩く。
あまりに急だったから、"柏木さん"も少し驚く。
『"貴女"じゃなくて、せめて苗字で呼んでくださいな』
笑顔で言った。
「今は確か…一之瀬…さん」
『はい、一之瀬です。今からそれで呼んでくださいね?』
「はい。…もしかして、これを言うためだけに…?」
『違いますわ、あの方からの伝言を』
「………」
『"あまり時を進めるな"ですって』
「……やれやれ、仕方ない、わかったとだけ伝えておいてください」
『はい』
「いつもすみません」
『いいのですよ。むしろ、私にできることなら何でも言ってください』
「じゃあ、ひとつだけ」
『なんでしょう?』