漆黒の少女。
だが、1890年4月11日にはかなりの衰弱をみせていた。

メリックは正午まで起き出さないのが通例になっていたが、研修医が午後の回診に来たときには仰向けに寝たまま亡くなっていた。

27歳という短い生涯だった。死因は頸椎の脱臼あるいは窒息死といった事故死であった。

普段、メリックは膨張した頭部の巨大さから普段はベットの上に座り、抱えた両膝に頭を乗せるようにして寝ていたが、この日は仰向けに寝ることを試みたため不運な結果を迎えてしまったと考えられている。

医師のフレデリック・トリーヴスは後に「エレファントマンとその思い出」という本を著した。

死後、骨格標本が保存されて研究の対象となっているいくつかの遺品は博物館で実際に見ることができる。
だが、皮膚などの組織標本は第二次世界大戦下で紛失してしまったらしいのだ。
メリックは短い生涯の中で何を見て、感じていたのだろうか。

あまりにも過酷な現実を受け入れ、見世物小屋で働き生活面を維持していた。

そこら辺の政治家よりも俺はメリックを尊敬している。
メリックは強いのだ。そう人生を諦めず生きたメリックは強いのだ。漫画で読むどんなヒーローよりもだ。

ある程度の説明をすると少女は瞳を輝かせて言ったのだ。

『人生のヒーローだわ』

『そう、リアルを生きたヒーローだ』

しかし、奴らはメリックを侮辱した。
許せないことだ。
俺は怒りで脳みそが揺れた。




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