緋桜鬼譚
取っ手に手をかければ、鍵なんて見かけ倒しで掛かってなどいなかったのか――ぎぃ、と扉は鈍い音をたてた。
正面からでは分からなかったが、随分とこの蔵は奥行きが深いようだ。一切隙間らしい隙間のない蔵。星明かりも届かない場所で、闇は一層濃くなった。
「……誰?」
そんな、まるで牢のような蔵の最奥から聞こえた、凛とした少女の声。その姿を確認することはできないが、身じろぎし、こちらを向く気配がする。