緋桜鬼譚
聞こえた声が決して春香や麻由のものではなかったからか、それとも問う割には返事など期待していなかったのか――少女が息を呑んだ。
「なあ、誰なんだ?」
「……女中の名前。あなたこそ、誰? ここに女中以外の誰かが来るなんて初めてよ」
「俺が誰か、か……約束しただろ?」
パチン、と指を鳴らす音。音と共に、少女の持つランプに火が灯った。仄明かりの中に二人の影が浮かび上がり、鉄格子を挟んで、初めて互いの姿を確認した。
「必ず朔緋をここから連れ出すって。……朱都だよ」
「アヤト……?」