緋桜鬼譚
漆黒の髪に、真紅の瞳。この世の者とは思えないくらい、美しいその姿――背筋が凍るほどに。人と呼ぶには高貴過ぎて、しかし天使と呼ぶにはどこか禍々しい。
だが、美しいことに変わりはなく――美しいがゆえに、これは夢なのではないかと朔緋は疑ってしまう。
だって、ずっと夢見ていたアヤトが。存在すら確かではなかったアヤトが、朱都という形を持ってここにいる。
差し出される手。触れれば温かそうな、朔緋のものよりも大きいそれ。今すぐその手を取りたいのに、そうした途端に消えてしまいそうで――夢が覚めてしまいそうで。朔緋は動くことができない。
――この時、早くその手を取っていたのなら。
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