緋桜鬼譚
そんな、嘘か本当かも分からないような伝承――それでも、十二になった朔緋が“それ”に襲われかけた時には。恐怖したのだ――このままでは、いつか朔緋は攫われてしまうと。
忘れはしない。あの美しくも恐ろしい、過々しい漆黒と真紅を――……
そして、今。深い闇の中に、“それ”の気配が現れた。空気がざわめく、肌が粟立つ。恐ろしいモノが迫っている――
朔緋を閉じ込めた、暗い暗い檻へと急ぐ。連れて行かせはしない。そのために五年間、彼女に暗闇の中での生活を強いたのだから。
恨まれてもいい、憎まれてもいい。ただ、朔緋が無事ならば――それだけを願ってきたというのに。
連れて行かれてしまったら――この五年間、暗闇に彼女を繋ぎとめたことを、どう弁解すればいいのだろう。
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