緋桜鬼譚


 烙城朱都(ラクジョウアヤト)。それが彼の名前だった。烙印を押された城、だなんて――なんて、不吉な。


 外見年齢は二十歳前後。だが、実年齢もそうであるとは限らない。――何せ彼は人間ではないというのだから。鬼と人との違いは、朔緋の知るところではない。


 訊けば教えてくれるのかもしれない。ただ訊いてしまうのは、怖い。時の流れが違うことを知ってしまえば、同時に越えられない壁を知ってしまう。


 ――何を言っているのだろう。すでに決して越えられぬ、高い高い壁を見せつけられたというのに。


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