緋桜鬼譚


 そう気づいて、はたと思う。自分は、このことをどう感じているのだろう。壁の存在に落胆しているのだろうか――何故? その壁を越えたいとでも思ったのか。――どうして。


 結局のところ、朔緋はまだアヤトが忘れられないのだ。たとえそれが偽りの姿だったとしても――朔緋に希望を与えてくれたのは、間違いなく彼だったのだから。


 いっそのこと、忘れてしまえば楽なのに。


 温かい言葉など忘れ去って、自分の腕を取るこの冷たい手を――朔緋を裏切った朱都を、憎んでしまえたら。


 それはどれほど幸せで――どれほど、悲しいことだろう。


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