緋桜鬼譚
「そうね、疲れたかもね。だって私、もう五年間もあの檻から出たことがなかったんだもの、全然歩いてなかったから。……ねえ、どこに向かってるの?」
「どこだっていいだろう、どこか行きたい場所でもあるのか?」
「ううん、ない」
そうか、とだけ朱都は返し、また二人の間には無言が続く。歩くたび、だんだんに街灯は少なくなり、やがてそれは姿を消した。星明かりだけでは、隣にいる朱都さえまるで影のようだ。
その影さえ隠してしまうように、辺りには霧が立ちこめてきた。深く濃く、すべてを遮るかのようなそれに、もはや一歩先すら確かではない。