緋桜鬼譚
――だが途端、吹き抜けた風が視界を覆う霧を攫っていく。徐々に薄くなる白い世界、入れ替わるように姿を見せる景色。
現れたのは静寂を纏う屋敷だ。薄暗くはっきりとはしないが――門の向こうに、確かに屋敷が見える。
再び歩き出す朱都に、腕を引かれたまま門をくぐる。それが今まで住んでいた世界との境界のようで、つい振り返り、ぎくりとした。
完全に霧は晴れ、今まで覆い隠していた“道”の正体を露わにした。山道はいつの間にかその姿を変え――先程足を止めた場所、その先は切り立った崖となっていた。