緋桜鬼譚
おそらく先程まで歩いてきた道は、そのさらに先にある暗い森とを繋ぐ、長さ十メートルほどの天然の橋だ。幅は一メートルもなさそうで、そんなところを二人並んで歩いてきたのかと思うとぞっとする。
――何故なら、橋の下には雲が見えるからだ。ここは山の上なんかじゃない、むしろ空の中だ。
どう考えてもこんな高さまで登ってきた覚えはない。感覚的にも時間的にも、自分がここに立っているなんてありえない。
――とうに境界など越えてしまったのだと、朔緋は悟った。