緋桜鬼譚
「すみません、屋敷の中を見て回ってきてもいいですか?」
「それでしたらご案内しますよ」
「いえ、一人で行きたいんです。ちょっといろいろ考えたくて……」
行方の申し出を断り立ち上がる。お気をつけて、と朔緋を気遣う声に頷いて座敷をでる。
邸内は静かで、聞こえる音といえば朔緋の足音くらいだ。朱都に行方、それにまだ見ぬ住人がいるはずなのだが、これだけ静かだとまるでここには自分しかいないような気さえする。