いつかまた、同じ空が見れると信じて
僕は一度マンションに帰ると、記念すべき初メールをドキドキしながら送った。

『1時間後に公園って大丈夫?』

返事を待つ時間が嫌で、送って直ぐシャワーを浴びに行った。但し、音量は最大にして。シャワーを浴びながらも携帯の着信音に耳を澄ましていたのだが、一向にメロディーが鳴らない。
気落ちしながら出てきたものの、一応携帯を確認してみる・・・と、メール着信の表記があった。慌てて開くと、

『大丈夫だよ』

と、返事が届いていた。良く見ると携帯はマナーモードになっている。苦笑いしながら、久しぶりにタンスの中身をひっくり返して、着る服を選び始めた。ちょっと太めのジーンズに、トップは黒の薄いニット生地のロングTシャツ。時間をかけて選んだわりには、普段と変わり栄えがしなかった。でもジャージ以外で杏子に会うのはこれが初めてだし、失敗のなさそうな服を選んだつもりだ。

「行くかっ。」

自分に気合をいれて、いつもの道を自転車で走りだした。もう日が落ちるのがだいぶ早くなっている。鈴虫の鳴き声 (鈴虫かは分からないけれど)と、そこに吹く秋風が、一層切なさを感じさせた。

 公園に着くと、杏子はまだ来ていないようだった。気持ちを落ち着けようと、とりあえずベンチに座って待つことにした。彼女はどんな服を着てくるだろう。考えてみれば、僕はいつもジャージだけど、彼女はいつもワンピースを着ていた。優しい色のワンピースは彼女に良く似合っていた。

「よっ。」

突然後ろから声を掛けられ、思わずワッと声を出した。慌てて後ろを振り返ると、

「驚きすぎ。」

と言いながら杏子がお腹を抱えて笑い転げていた。小さな花柄の秋らしいワンピースに白いカーデを羽織った彼女は、朝見るより一層色っぽく見える。そんな僕の気も知らずに、彼女は僕の隣にストンと腰を降ろした。

「で?何話って?」

むっ・・・僕は声を詰まらせた。さて、なんて切り出そう。散々考えたはずだったのに、何も口から出てこない。
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