いつかまた、同じ空が見れると信じて
その後、仕事を途中で切り上げた父さんが、すぐ病院に駆け着けてくれた。そして兄貴が連絡したのだろう。雅人と大原も見舞いに来てくれた。

「本当はみんな来たがったんだけど、しょっぱなそんな大勢じゃ困るだろうと思ってさ、二人で来た。」

雅人は僕が目を覚まさなかった間の出来事を色々教えてくれた。一ヶ月もの間目を覚まさなかった事、母さんがほとんど寝ないで毎日看病してくれた事、サークルのみんなも心配してくれている事、そろそろ文化祭の準備も大詰めな事、そしてあの日の事故で乗用車に乗っていた家族と、バスに乗っていた女の子一人が亡くなった事・・・。
 その後、僕らはくだらない冗談などを言い合うと、二時間ほどして二人は帰っていった。
 一人になった病室の小さな窓からは、虫の音が聞こえてくる。これで元通りか・・・。ふと傍に置いてあった携帯を見ると、見慣れたストラップが付いている。杏子とお揃いでつけた、併せ貝のストラップ。慌てて携帯のメモリーを探したけれど、やはり杏子のデーターだけ消えていた。僕は涙を堪えきれず、声を押し殺して泣いた。

(杏子・・・。やっぱり僕にとっては杏子がいた世界が現実だったよ。)

携帯の画面には「九月二十日」の数字が光っている。
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