時雨の夜に



私たちは、デパートから近いファミリーレストランに駆け込んだ。


向かい合って座ったまではいいとして。

実に奇妙な関係だということに、今更違和感を抱く。


だって相手の名前も知らないし、私自身、まだ名乗ってもいない。

それなのに食事……。



「あのー……」


向かいの席でパスタをつついている男が、私を見た。


「なに?」

「名前、まだ聞いてないですよね?」

「ああ、そっか。あなたは?」


私から名乗るんですかとまで言わないものの、自分を指差して目を丸くした。

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