時雨の夜に
「ところでシグレさん、どうして私なんかを食事に……? 雨宿りくらいなら他でも──」


カチャッ、とフォークを置く音に、私の言葉はさえぎられた。

シグレは頬杖をついて、妖(あや)しげな笑みで私の目を見る。


「曇ってたから。君の心の中が」

「私の心の、曇り……?」

「そ。俺の仕事は、溜まり切った雨雲を晴らすことだから。そういう人見てると、ほっとけなくてね」

「そんな仕事って──」


シグレはまた笑った。


「もしかして澄川さん、俺のこと気になってる?」

「そ、それは──あなたに会う日は決まって雨が降るからであって。だいたい、シグレさんって雨男なんですか?」

「だからそう言ってるだろ? 雨雲があったら、俺がちょっと出かけて行って、存分に雨を降らせてやる。それで雲は薄くなる。毎年この時期やってる仕事さ」

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