時雨の夜に
すれ違う気持ち
「傘、持って来いよ」
それが、初めてのデートの前日に言われた言葉だ。
外はほんのちょっと雲が多いだけで、太陽が見えているのに、傘を持って待ち合わせの喫茶店に入っていく。
『最近の若いのは天気予報もろくに見んのか』と言う気持ちを孕(はら)んだ眼差しに、あちこちから射すくめられた私。
しかし、その10分後には、やわらかな陽光を溶かしたような、さらさらの小雨が降り注ぐ。
──狐の嫁入りだ。
それを合図に、シグレが店内に駆け込んできた。
「ごめんごめん! 待たせたな」
彼が店内に入ってから間もなく空が曇りはじめ、本格的にな雨が、しとしと降ってくる。
さっきまで視線でチクチク私を刺していた人たちは、傘を持った私の予見力に舌を巻いているようだった。
「本当に雨、降ってきた……シグレさんて、本当に雨男なんですね」