月は太陽に恋をした
雨の帰り道
「これで今日の授業は終わりだ、気をつけて帰れよ」
田嶋のその声で今日の1日が終わった。
田嶋は俺の担任の数学教師。
他の奴らが部活や遊びやなんかで教室を出て行く。
コツン―…
俺も帰ろうと思って立ち上がった時、足元に小さな消しゴムが転がっていた。
『…』
誰のだよ、
消しゴムを拾い上げると、パタパタと一人の女が近づいてきた。
「ごめん、麻宮君、それ私ので…」
『…あぁ』
「ありがとう!」
にこり、と笑って消しゴムを受け取ってその女は去っていった。
俺を見て大体のやつが怯えるか、近づこうともしない。
だけどあいつ、同じクラスの森下千夏(モリシタチナツ)だけは何故か普通に笑って話し掛けてくる。
別に、高1からクラスが一緒って訳でもない。
ただ2年になって一緒になっただけ。
まぁ別にあいつに興味はないが、不思議な奴だとは思う。
『…帰るか』
俺は茜色に染まる外に向かって欠伸をしながら歩き始めた。