月は太陽に恋をした

『森下…』

俺が無意識に呟いた俺の声は雨の音に掻き消されてしまって、森下の耳には届かなかった。

何してるんだ？
こんな雨の中寂しい顔をして。
このまま居ても、
風邪、引くよな。

俺はそう思い横から森下に買ったばかりのありふれたビニール傘を傾けた。


『…風邪、引くぞ』

今度はきちんと俺の声は耳に届いて、ゆっくりと顔をこっちに向けた。

「…麻宮、くん…？」

俺の姿を認識するとん驚いた表情を浮かべて口を開いた。

『…何してるんだ？』
「いや…！ちょっとぼんやりしてただけだよ！」
『…雨に気づかないほどか？』
「あ、あははは～…そうだよね！」


慌てて笑みを浮かべる森下は、なんとなくいつもよりも上手く笑えてない気がした。

「麻宮君？」
『…無理に、笑わなくていい』

俺は森下にビニール傘を持たせた。

『…風邪、引くなよ』


それだけ言ってから俺は雨の音を聞きながら歩き始めた。

後ろから森下が呼ぶ声が聞こえるけど、前だけを見て俺は歩いた。