たべちゃいたいほど、恋してる。
「へ?」
「だから、怖ぇなら掴まっとけ。もうすぐ着くから」
思わぬ言葉に、一瞬龍之介が何を言っているのか理解できなかった優衣だが、「早くしろ」という龍之介からの催促に慌てて服を掴んだ。
(わ…背中おっきい。)
制服を掴み、初めてまじまじと龍之介の背中を見る。
洋服越しでもわかる筋肉のついた大きな背中。
ドキン、ドキン
突然大きく動きだした心臓。
優衣はブンブンと頭を横に振り、いらぬ思考を振り払おうとする。
(ドキドキの理由、私は知らないもん)
初恋もまだの優衣に高まる心臓の理由などわかるはずもない。
心臓が五月蝿いのは怖いせいだと自分に言い聞かせ、優衣はただただ龍之介の制服をきつく掴むしかなかった。
「ほら、着いたぞ」
龍之介の声に慌てて顔を上げれば、見えたのは探していた音楽室。
(もしかして…連れてきてくれた…?)
「降ろすぞ」
一言かけてから龍之介はゆっくりと優衣を降ろす。
ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に龍之介の手つきは極めて優しい。