たべちゃいたいほど、恋してる。
覚えのある香りにおそるおそる顔を上げれば、目の前には僅かに顔を顰める龍之介がいた。
「りゅ、くん…?」
シーン…と静まった体育館の中。
驚いて名前を呟けば龍之介は無言で優衣の頭を撫でその体を持ち上げる。
予想外の展開に頭が真っ白になっている優衣は、ただただそんな龍之介の行動に流されるがまま。
ざわざわと騒ぎ立てる周りの声は聞こえない。
「…俺、抜ける」
近くにいた健にそう告げた龍之介の声は氷のように冷たくて。
周囲の気温が一気に下がったような錯覚に陥る見物客たち。
そんな周りの生徒を尻目に、優衣の膝裏に手を入れ横抱きに抱き直した龍之介は無言のまま体育館を後にした。
去りぎわに、ボールを投げた男を睨むことを忘れずに。