たべちゃいたいほど、恋してる。
「ほんがふひふはへはんひゃひひへふへはほ(音楽室まで案内してくれたの)」
頬を摘まれたままなんとか答えた優衣だったが、夏希はその答えに有り得ないと顔を歪ませた。
「大上龍之介が、案内…?」
目をこれでもかというくらい見開いて声を震わせる夏希。
そして依然として優衣の頬は伸ばされたままである。
女の子としてあるまじき顔になっている優衣だが、夏希は気にも止めずただただ悩ましげに頭を働かせているようだ。
「ほらほら高野!うーのほっぺ伸ばすのやめろって。可愛い顔が台無しになるだろ〜」
そこに現われた救世主。
そっと夏希の手から優衣を助けだしてやる。
「梨本…」
「健くんー!!」
痛いよ〜と泣き付く優衣をよしよしと宥めてあげているのはクラスメートの梨本健(ナシモト タケル)。
クラスメート兼幼なじみの彼は、かれこれ十年以上優衣の保護者代わりだ。
まさに"爽やか"という言葉は彼の為にあるのでは、と思うほど爽やかオーラを振りまく健は水泳部きってのエース。