たべちゃいたいほど、恋してる。
《狼さんとの出会い》
「ここはどこなんですかー…?」
半泣き状態で特別教室の並ぶ廊下をうろうろ彷徨っているのは、桐花国際高校の二年生・遊佐優衣。
この学校ですでに二度目の春を迎えたはずの彼女だが、いまだ毎日のように校内で迷子になっている。
そう。
彼女は極度の方向音痴なのだ。
優衣の方向音痴は生徒や教師の間でも有名な話で、いつもなら誰かが助けてくれる。
"泣いている迷子がいる"
そう言えば全員が百発百中で優衣を捕まえてこれるほどだ。
そんな姿と苗字の遊佐とをかけて、彼女には"うー(兎)ちゃん"という愛称がついている。
勿論、本人は自分がそんな不名誉な理由で有名だとは知らないのだが。
「音楽室に行きたいだけなのに…なんでぇ…」