たべちゃいたいほど、恋してる。
必死に己に言い聞かせる優衣。
きつく奥歯を噛み締めたとき、ふとこちらを振り向いた父親と優衣の視線がかち合った。
ドクン、ドクン
痛みを覚えるほどに激しく音を立てる優衣の心臓。
手のひらにはじわりと嫌な汗が滲んでいく。
何か言われるのだろうか。
それとも怒られるのだろうか。
瞬時にそんな考えが優衣の頭を過る。
しかし
──────ふいっ
(………え……?)
何かを言どころか、父親は何もなかったかのように視線を逸らし隣にいた二人と笑い合いながら優衣の傍を通り過ぎていった。
まるで、初めからそこに優衣など存在しなかったかのように。