たべちゃいたいほど、恋してる。




(気付かな、かった…?)




気付かなかったはずはない。

二人の視線は確かに外れることなく重なっていたはずで。

いくら人混みのなかだからとはいえ、至近距離にいる娘に気付かないなどあるはずがなくて。



…ぽた…



ゆっくりと頬を伝った一雫の涙。

追い付かない思考とは裏腹に優衣の涙は心の中の悲しみを語るよう静かに零れ落ちる。


辿り着いた結論は認めたくない現実。

必死で否定しようとしても、繰り返し浮かんでくる先程の光景。




「わた…し…は…」




ガシャンッ




"いらないの?"と続くはずだった言葉と目の前の景色は、何かが落ちる大きな音とともに暖かい何かに遮られた。




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