たべちゃいたいほど、恋してる。
それだけ言うと爽やかに優衣の前から立ち去っていった井上。
そんな彼女の顔には最後まで綺麗な笑みが残っていた。
井上が立ち去った後も、暫くその場から動くことが出来なかった優衣。
ざわざわと風が優衣の耳を撫でる。
そしてそれすらも、優衣の心を惑わせた。
動かぬ足を何とか前へ押し出して歩む自宅への道程。
家に父親が帰ってきているかもしれないとか、買い忘れがあったかもしれないとか。
先程まで考えていたはずのことは今の優衣の頭からは綺麗さっぱり消えてしまっていた。
そんなことを考えている余裕は無い。
気付けば優衣は買い物袋を抱えたまま自室のベッドの上に座り込んでいて。
荷物を投げ出しベッドの端で膝を抱えながら俯く。
優衣の頭には龍之介と井上の顔が交互に浮かんでいた。