たべちゃいたいほど、恋してる。
そっと目を開ければ見慣れた父の靴とその隣に並べられた趣味の悪い真っ赤なハイヒール。
(…やっぱり、違う人か)
母のものでないそれが表すのは、紛れもなく"愛人"という存在。
それは父とともに家に上がったと思われる赤い車の持ち主でもある。
恐らくリビングに居るであろう父親に気付かれぬよう、優衣は静かに階段を上り二階にある自分の部屋に足を進めた。
だが、物事はそう簡単に上手くは運んでくれない。
「…優衣、帰ったのか」
階段を途中まであがったところで、優衣の後ろから聞こえた低い声。
振り返らずともわかるそれは、間違いなく自分の父親のもので。
「…は、はい…」
優衣は無意識のうちに震えてしまった声のまま返事をする。