たべちゃいたいほど、恋してる。




僅かに血が滲んだ口元をぐいっと左手で乱暴に拭い、真っすぐに優衣の父親を睨み付ける龍之介。

その瞳は完全に敵を見据えるそれ。


そしてゆっくりと低く言葉を吐き出した。




「…優衣、悪い。先に謝っとく」




目線は父親を捉えたまま紡がれた謝罪の言葉。


その言葉が一体何を意味しているのか。それはわからない。

けれど龍之介が今までになく怒っているのだということだけは優衣にもわかる。

それが自分の為なのだということも。




「…謝っちゃ、やだ」




大丈夫だから謝らないでと小さな声で呟く優衣。


その手は必死に龍之介の服を握り締めていて。


それでも目にはちゃんとした意志が宿っていた。

それに驚いたのは龍之介ではなく父親のほう。




< 521 / 574 >

この作品をシェア

pagetop