たべちゃいたいほど、恋してる。




「…お財布…」




階段から降ろされた時に落ちたのだろう。

廊下に投げ捨てられたままの鞄に手を伸ばす。


鞄まであと少し…というとき、ぐっと腹部に痛みがはしった。


思った以上に強く殴られていたらしい。




「…痛っ」




痛みに体を支えられず、優衣はそのまま床へとへたりこんだ。




「……っふぇ…」




こうなったのはいつからだったろうか。


昔からだったかもしれないし、最近の話だったかもしれない。


だが、少なくとも母が父親の暴力に耐えかねて家を出たのは事実。




"一緒に家を出よう"




母は再三優衣を説得していた。


しかし、慣れない土地で新たに生活を始めることに不安を感じていた優衣。


地元を離れれば方向音痴の優衣は学校に行くのも一苦労だろう。




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