たべちゃいたいほど、恋してる。
どうやら優衣は違うようだ。
流石天然。
未だどうしようと慌てている優衣を不憫に思ったのか、龍之介は一度面倒臭そうに頭を掻くと
「…音楽室、向こうの校舎だろ」
と廊下の窓を指差した。
龍之介が指を差したほうに顔を向ければ、窓の向こう側に見えるもう一つの校舎。
「……?」
「……」
ガラス越しに見える渡り廊下で結ばれた向かいの校舎を見つめることたっぷり数十秒。
「ぬぇぇぇええ!!!!????な、なんで!?」
優衣の絶叫が廊下に響く。
目が飛び出るんじゃないかと思うほどに校舎を凝視する優衣。
それもそうだろう。
本人は至って真剣に一つの校舎の中を歩いていたつもりだったのだから。
(何で!?ちゃんと教えてもらった道順で歩いてきたのに!いつ校舎を跨いだの!?私!)
優衣はわけが分からないと泣きそうになるのを耐えながら、唇を噛み締め涙目で俯いた。
(まさか、ここまで自分がバカだったなんて…)
「ど、どうしたらあっちに戻れるの?」
がっくりと肩を落とす優衣を龍之介は上から見下ろす。
190センチ近い龍之介がおよそ150センチほどの優衣を見下ろしている光景は些か不思議で。