たべちゃいたいほど、恋してる。
怒る大人と叱られる子どものような光景だ。
今誰かが通りかかれば、十中八九龍之介が優衣を泣かしたのだと誤解するだろう。
「…お前、本当噂通りなんだな」
龍之介はポンと優衣の頭に手をやった。
思いがけない手の温もりに顔を上げれば、見えたのは困ったように笑った龍之介の顔。
その顔に小さくだがトクンと胸が鳴った気がした。
「……ん?」
そんな初めて見た龍之介の表情に魅入っていたとき。
ふと優衣の視界に入った横にある表札。
それは龍之介が出てきた教室を指すもので。
「…………家庭科、室?」
優衣の口から漏れた言葉に頭の上にあった龍之介の手がピタリと止まる。
そしてそのまま、ガシッと優衣の頭を掴んだ。
「ぬぅぇ!?い、痛いよ!?」
突然こめられた力に顔を歪ませ龍之介を見る優衣。
そこには先程までの柔らかい表情はなく、恐るべき般若の様子をした龍之介の姿があったのだった。
「……遊佐」
「は、はひ…」
ドスのきいた声で凄まれ肩が跳ねる優衣。
龍之介はグイっと顔を近付けて鼻同士がくっつきそうな位置で一言告げる。
「………俺がこっから出てきたって、誰にも言うなよ?」