*写真屋の恋*
センセイは、
センセイは泣きそうな顔をしていた。
泣きそうになっていたのは私だったはずなのに、センセイはその何倍も辛そうに眉を寄せて、握りしめるように私を抱きしめていた。
「センセイ。」
私はそっとセンセイの背中に腕を回す。
「…ゆな君。」
苦しそうに、切なそうに、私を呼ぶセンセイの声。
どんな“ただいま”より、私の心にじんわり響いた。
ただ抱きしめられながら、ふと思い出す。
センセイは、ある日帰ってきたら、“お帰りなさい”の声が無くなっていたんだ。
“お帰りなさい”と一緒に、丸ごと大事なものが無くなっていたんだ…。
私はもう一度センセイの胸の中で言う。
「お帰りなさい、センセイ。」
「…ただいま、ゆな君。」
そういうと、センセイの腕に一層力が込められた。
まだ、私はセンセイについて知らない事がいっぱいある。
どんな事に傷ついていて、
どんな所で怒って、
どんな事に感動するのか。
どんな事が喜びで、
どんな風に人を愛するのか。
私はまだまだセンセイを知らない。
一歩づつ、近付けたらいいな。
一歩づつ、同じ道をあるけたらいいな。
センセイ、ゆっくり行こうね。
ゆっくり歩いていこうね。
センセイ、
大好きです。
Fin
【2012·06·29】